FXには、損失が一定以上になると自動的に決済して損失を確定させるロスカットという機能があります。ロスカットが発動すると損失が確定してしまいますが、ロスカットは投資家を過剰なマイナスから守るという重要な役割があります。
スカットについて正しく理解すれば、損失や証拠金維持率を適切にコントロールできるかもしれません。本記事ではFXのロスカットの概要やロスカットラインの計算方法、ロスカットを回避するための方法について詳しく解説します。
目次
FXのロスカットとは
FXのロスカットとは、含み損が一定以下になったらポジションを強制的に決済して、証拠金を超える損失が発生を防ぐシステムです。例えば「証拠金維持率50%以下でロスカット」と決められている業者では、含み損が拡大する前に証拠金維持率が50%以下になった時点でロスカットが発動されます。
FXでは損失が証拠金を超えると、追加証拠金の支払義務が生じ、場合によっては高額な借金を背負わなければならないリスクがあります。そのため、ロスカットはトレーダーを借金から守る役割があるのです。
ロスカットの目的
ロスカットはトレーダーを守るために存在します。例えばポジションを保有している際に、100万円の証拠金に対して含み損が150万円まで拡大した場合には、不足分の50万円を追加証拠金として入金しなければなりません。
しかし、含み損が証拠金の範囲内にあるうちに強制的に決済(ロスカット)する仕組みを用意しておけば、損失が証拠金を超える金額まで拡大せずに損失を証拠金の範囲内に抑えられるのです。
ロスカット率はFX業者によって異なる
損失がどのくらいになったらロスカットが発動するのかは、FX業者によって異なります。国内のFX業者では、100%または50%の基準が一般的です。ちなみにロスカット率100%とは、証拠金維持率が100%を下回ったらすぐにポジションが決済されるということを示しています。
なお海外のFX業者では、ロスカット率25%などと決められているところが多いです。
証拠金維持率の計算方法
ロスカットは、証拠金維持率がFX業者が定めたロスカットラインに到達した際に発生します。そのため、証拠金維持率を自分で計算できるようにしておくことが非常に重要です。
証拠金維持率は以下のように計算します。
- 証拠金の残高÷必要証拠金×100
- 必要証拠金=現在の為替レート×取引数量÷レバレッジ
例えば、次のような条件の証拠金維持率を計算してみましょう。
- 為替レート:125円
- 取引数量:10万通貨
- レバレッジ:25倍
- 証拠金残高:200万円
このケースでは、証拠金維持率は以下のように算出されます。
- 必要証拠金=125円×10万÷25=50万円
- 証拠金維持率=200万円÷50万円×100=400%
ロスカットと損切りの違いとは?
ロスカットと損切りでは、「損失を確定させる」という点では同じです。しかし、ロスカットはFX会社が決めたルールに則り、自動で決済するシステムです。
一方損切りはトレーダーが自分で決めたルールに則って、自らで決済して損失を確定させるため、それぞれ自動か手動かという違いがあります。
そのため、ロスカットによる損失の方が損切りによる損失よりも大きくなるのが一般的です。
FXのロスカット基準額(ロスカットライン)の計算方法
FXのロスカット基準額(ロスカットライン)とは、口座残高がこの金額を下回るとロスカットされるというラインです。ロスカット基準額は、以下の数式で計算されます。
ロスカット基準額=必要証拠金×FX会社が定めたロスカットライン
例えば、必要証拠金が50万円でロスカットラインが50%の場合は、50万円×50%=25万円となり、口座残高が25万円以下になった時点でロスカットが発動します。
また「どのレートになったらロスカットされるのか」ということを把握するために、「ロスカットされるまでの値幅」を計算するための数式は以下の通りです。
- (証拠金残高-ロスカット基準額)÷取引数量
証拠金残高が100万円、ロスカット基準額が25万円、取引数量が10万通貨の場合のロスカットレートは以下の通りです。
- (100万円–25万円)÷10万=7.5
このケースでは、レートが7.5円下がったら(買いポジションの場合)ロスカットが発動するということになります。
このように、証拠金維持率が200%を切るくらいになったら「あとどの程度の値幅でロスカットが発動するのか」ということを自分で把握できるようにしておくことが重要です。
ロスカットの自動計算ツールも活用しよう
ロスカットラインやロスカットされるまでの値幅は自分で計算することもできますが、複雑で手間がかかるので非常に面倒です。そのため、ロスカットの自動計算ツールも活用するのがおすすめです。
ロスカットの自動計算ツールは、以下のような情報を入力すると自動でロスカットラインを計算してくれます。
- FX口座残高
- 通貨ペア
- エントリーレート
- ポジション数
- 通貨単位
- 売買方向(買いポジションか売りポジションか)
簡単な情報を入力するだけですぐにロスカットされるまでのレートが計算されるので、「どの程度のレートになったら損切りや追加証拠金の入金を考えよう」などと戦略を立てやすくなります。FX会社のサイトには自動計算ツールが実装されていますので活用してみましょう。
FXにおけるロスカットの注意点
日本のFX業者でトレードする際には、以下の2点に注意する必要があります。
- ロスカットきないことがある
- ロスカットが間に合わないと借金になる
ロスカットは万能ではないので、ロスカットが作動せず借金を負わなければならないリスクについても把握しておきましょう。
FXにおけるロスカットの2つの注意点について詳しく解説します。
ロスカットできないことがある
ロスカット機能があるからと言って、ロスカットラインを下回った時に100%ロスカットできるとは限りません。急激に相場が変動した場合には、ロスカットが間に合わずにロスカットラインを下回っているのにポジションを保有してしまっている可能性もあります。つまり、あまりにも急激に相場が下落した場合には、ロスカットが追いつかないケースがあるのです。
また相場急変時にはシステムに注文が殺到するので、システムがパンクしてロスカットできない可能性も考えられます。このように、ロスカットを用意しているからと言って証拠金を超える損失を出してしまうケースが絶対にないわけではありません。
そのため、場合によっては用意しているロスカットがうまく機能しないリスクがある点を認識しておきましょう。
ロスカットが間に合わないと借金(追証)になる
ロスカットが間に合わず、証拠金維持率を超えるようなマイナスが生じると、借金を背負う事態になってしまいます。証拠金を超えるマイナス分は、FX会社へ追加証拠金として納めなければなりません。
追加証拠金を支払えない場合には、借金を完済するまで請求が続きます。また支払えない期間が長期化した場合には、裁判所から支払督促が届き、それでも払わない場合には財産の差し押さえが行われるケースもあります。
ロスカットがあるからといって必ず安心できるわけではなく、借金を背負ってしまうリスクがある点を十分に考慮して、証拠金維持率には余裕をもってトレードすることを心がけましょう。
ロスカットが発生する流れをシミュレーション
ロスカットが発生する流れをシミュレーションします。
例えばFX口座へ証拠金として50万円を入金して、ポジションを保有してからロスカットが発生する場合の流れを見ていきましょう。
①証拠金を50万円入金した
口座残高 |
500,000 |
必要証拠金 |
0 |
約定評価損益 |
0 |
注文証拠金 |
0 |
建玉評価損益 |
0 |
建玉可能額 |
500,000 |
スワップ |
0 |
振替可能額 |
500,000 |
純資産額 |
500,000 |
証拠金維持率 |
– |
②1ドル=100円のレートでドル/円を買いポジション、レバレッジ25倍で10万通貨保有した
- 必要証拠金=100円×10万通貨÷25=400,000円
- 証拠金維持率500,000円÷400,000円×100=125%
口座残高 |
500,000 |
必要証拠金 |
400,000円 |
約定評価損益 |
0 |
注文証拠金 |
0 |
建玉評価損益 |
0 |
建玉可能額 |
100,000 |
スワップ |
0 |
振替可能額 |
100,000 |
純資産額 |
500,000 |
証拠金維持率 |
125% |
③ドル/円レートが50銭下落して99.5円となり、損失が発生した
- 評価損=0.5円×10万通貨=50,000円
- 純資産額=口座残高500,000円–評価損50,000円=450,000円
- 必要証拠金=99.5円×10万通貨÷25=398,000円
- 証拠金維持率=450,000円÷398,000円×100=113.06%
口座残高 |
500,000 |
必要証拠金 |
398,000円 |
約定評価損益 |
-50,000円 |
注文証拠金 |
0 |
建玉評価損益 |
-50,000円 |
建玉可能額 |
52,000円 |
スワップ |
0 |
振替可能額 |
52,000円 |
純資産額 |
450,000 |
証拠金維持率 |
125% |
④さらにレートが下落してロスカットライン100%へ到達したため、ロスカットが発動した
口座残高 |
500,000 |
必要証拠金 |
395,830円 |
約定評価損益 |
-104,170円 |
注文証拠金 |
0円 |
建玉評価損益 |
-104,170円 |
建玉可能額 |
0円 |
スワップ |
0 |
振替可能額 |
0円 |
純資産額 |
395,8300 |
証拠金維持率 |
100% |
デモトレードを使ってロスカットを体験しよう
このように、ロスカットは含み損が拡大して純資産額が減少して、証拠金維持率が一定以下になると発動します。ただし実際の相場の動きはかなり激しいので、想定していたよりも非常に早くロスカットが進んでしまうのが一般的です。そのため、デモトレードを使用して疑似的にロスカットを体験しておくことをおすすめします。
デモトレードとは、架空のお金を使用して実際の取引ツールや実際の相場でトレード体験を行うツールです。取引のノウハウを学ぶだけでなく、ロスカットされる際の緊張感や焦りなどの心理的な経験を積むこともできます。
FX会社の中にはデモトレードが用意されている業者も多いので、まずはデモトレードでロスカットラインまで損失が拡大する経験を体感してみるのがよいでしょう。
FXでロスカットされない3つの方法
FXでロスカットを避けるためには、以下の3つの点を押さえてトレードするようにしましょう。
- 証拠金を追加で入金する
- ポジション一部決済する
- マージンコール・ロスカットアラートを見逃さない
追加証拠金を入金するか一部決済によって証拠金維持率を引き上げれば、ロスカットを避けられます。ロスカットを避ける3つの方法について詳しく解説します。
①証拠金を追加で入金する
常に一定以上の証拠金維持率をキープするために、証拠金維持率が下がってきたら証拠金を追加で入金するようにすればロスカットを防げます。
一般的には証拠金維持率は300%以上あれば安心だと言われているので、例えば含み損が拡大して証拠金維持率が300%を切ったら、再度200%以上になるように証拠金を適宜入金すれば、急な相場変動があってもロスカットになるリスクを大幅に軽減できるでしょう。
②ポジション一部決済する
複数のポジションを保有している場合は、ポジションを一部決済すれば一時的に証拠金維持率を高めることが可能です。ただし、決済後も相場が損失が出る方向に動けば証拠金維持率が下がるため、「ここを耐えれば利益が出る方向へ転じる」と確信がある時に活用すべき方法です。
そのため場合によっては、含み損の拡大を防ぐためにある程度のラインで早めに損切りを行うことも検討しておきましょう。
③マージンコール・ロスカットアラートを見逃さない
マージンコールやロスカットアラートを見逃さずに、一定の証拠金維持率になったら適切に対処することも重要です。マージンコールとは、証拠金維持率が一定以下になった時にトレーダーに追加証拠金に入金を求めるシステムです。またロスカットアラートもロスカットが近づいていることを知らせるシステムであり、マージンコールと同じ役割を果たします。
これらのFX業者からのお知らせを見逃さないようにすれば、ロスカットが発動する前に「追加証拠金を入金するか」「損切りをするか」など、最善の対応を検討できるでしょう。
「気づいた時にはロスカットされてしまった」ということがないように、マージンコールやロスカットアラートを見逃さないようにしましょう。
海外FXのロスカットルールとは?
海外のFXのロスカットには、日本の業者にはない以下の2つの特徴があります。
- ロスカット水準が低い
- ゼロカットシステムがある
海外FXは国内業者と比較してロスカット水準が低い傾向があります。日本のFX業者のロスカット水準が50%〜100%程度であるのに対して、海外業者は0%〜50%程度です。そのため、海外業者の方が含み損が拡大してもポジションを保有し続けられます。
また、海外の業者にはゼロカットシステムがある点も大きな特徴です。ゼロカットシステムとは、含み損が証拠金を下回りFX業者に借金をしている状態になったとしても、マイナス分の補填はしなくてもいいシステムです。そのため、ゼロカットシステムが採用されている海外FXでロスカットが間に合わなかった場合でも借金になるリスクはありません。
海外FXはレバレッジが高くロスカット水準が低いので、国内FXよりもギャンブル性が高いですが、ゼロカットシステムによって「損失は証拠金の範囲まで」に留められる点は大きなメリットです。
まとめ
ロスカットは保有ポジションの含み損が拡大して証拠金維持率が一定以下になったら、強制的にポジションを決済して損失を拡大させる仕組みです。トレーダーの損失を一定範囲内に抑えてトレーダーを守る目的で行われていますが、相場急変時などはロスカットが間に合わないケースもあります。
そのためロスカットがあるから安心と油断せずに、自分で証拠金維持率を計算して、あとどの程度相場が変動したら「追加証拠金を入金しよう」「損切りしよう」などと戦略を立てられるようにデモトレードで経験を積みましょう。